🎥美学No.26《黄色い星の子供たち》

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黄色い星、それはナチス・ドイツ占領下でのユダヤ人である証拠のダビデの星。

1942年7月16日、フランスでユダヤ人13,152人がフランス警察に検挙され、強制収容所に送られた。パリ15区にあった冬季自転車競技場ヴェロドローム・ディヴェールに収容されたことから、ヴェル・ディヴ事件と呼ばれる。検挙者の内、4,115人が子供だった。広い競技場で何も分からず、遊んでしまう子供たちが哀れでならない。そこに5日間、食料や水をほとんど与えられず、横になることも出来ず、トイレも少ないため汚物は溢れ、飢えと渇きと臭気の中、未来は恐怖に変わる。赤十字から派遣されたフランス人看護師も、水道は止められ、医療物資もない中では成す術がない。ユダヤ人医師と見つめ合う視線が、生命を扱う二人に共通の絶望を物語る。

「春の風」と皮肉な名前をつけられた、ユダヤ人絶滅作戦に加担したフランス。当初の予定であった無国籍のユダヤ人検挙だけではドイツに報告する数が足らず、フランス国籍を持つユダヤ人も検挙し、死に向かわせた事実。検挙された子供のうち、3,000人はフランス生まれのフランス国籍だった。

子供たちは、いろいろな夢を抱いていたのだ。

湾岸戦争が始まった1991年、私は生まれて間もない娘を抱いてニュースを観ていた。そこに映し出されたのは「Children Only」と大きく書いてあるバスが銃撃された惨状だった。腕をとばされ泣きわめく子供、保母として1人同乗した女性が血まみれの子供を抱き、地獄の叫びをあげている映像に、のんびり我が子を抱いていた私は、一瞬でその女性と重なった。息が止まるほどの残酷。

もし今、自分のアイデンティティに関しての星をつけさせられたとしたら……人格を無視した様々な境界線が引かれ、壁をつくり、差別を生み、逃げ場のない環境を作ってしまうだろう。人間を一目で識別しようとした黄色い星は、その幼稚な方法で、いとも簡単に人生を奪ったのだ。

ホロコーストの映画を観た後は、歴史が重くのしかかる。もし、自分がユダヤ人だったら、もし、自分の子供と死への列車に乗せられたとしたら……命を救うことを使命と感じたと医師や看護師だったら……未来を選択する術はあったか。きっと、ただ無力を感じて運命を呪うしかなかっただろう。そうやって思いを馳せることしか、今の私達には出来ない。

知らないことの罪。それを少しでも軽減するために、歴史を振り返る必要があるのだ。

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