📖美学No.94《大地の子守歌》

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著作:素九鬼子

昭和の初め、四国の山奥……捨て子だったおりんを育ててくれたばばが死んだ。一人ぼっちになってしまった13歳の少女は、「海が見れるぞ」と言う女衒の言葉に惹かれ、瀬戸内海の売春宿「富田屋」に売られる。下働きのみならず、おちょろ船(客を取るために沖に停泊する船へ乗り付ける屋形船)の漕ぎ手にも志願する。それは、舟さえ漕げればいつかきっと島を脱出できるという少女らしいおりんの考えだった。借金を早く返して山に帰りたいと誰よりも働く。が、常に反抗的な態度で誰にも馴染もうとせず、激しい折檻にも謝らず、態度を改めない野生的なおりんに主人達は手を焼く。

著者は当初、覆面作家として話題を呼んだ。作家・由起しげ子の死後、筑摩書房が遺品を整理中に偶然、原稿を発見。それが素九鬼子が由起に送った処女作『旅の重さ』だった。1972年に刊行されベストセラーとなり、知人からの知らせで初めて自分の作品が出版されていることを知って名乗りでたのである。

2作目の『パーマネントブルー』、3作目の『大地の子守歌』、4作目の『ひまやきりしたん』で直木賞候補となる。処女作からの3作は全て映画化された。高橋洋子主演で『旅の重さ』、秋吉久美子主演で『パーマネントブルー』。そして、原田美枝子が主演した『大地の子守歌』は数多くの映画賞を受賞。原田は16歳の時に原作を読んで感動。この話が所属事務所のマネージャーから増村保造監督達に伝わり、まだ無名だった彼女の起用になった。

「女になりとうない。いつまでも子供でいたいんじゃ!」と泣き叫ぶおりん。初潮は少女が女になった証……それは、男を客に取る女郎になるということ。覚悟を決め、狂ったように客を取るおりんは盲目になってしまう。「ありがとう。ありがとう。」彼女を救おうとする牧師に帯を解き、着物を脱ぐしか感謝を表せないおりん。誰にも頼らず、辛い時には山に伏せって大地の声を聴く。まさに、おりんにとっての子守歌は大地であった。

13歳の少女が娼館に売られる『サンダカン八番娼館』(1974年)。製糸工場で過酷な労働に息絶える13歳の少女『あゝ野麦峠』(1979年)。肉体の現実を突きつけられ、少女達の夢はついえ、否応無く大人の階段を上る。そして、その魂は大地に還る。

「かたいおりんの目がわずかにほどけて、大地の精気がしのびこんできました。おりんはかつてなかったほどに、ひたむきに自然に所属しているのでありました。けがれのない生きもののように息づいているのでありました。」

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