🎼美学No.95《スティング Englishman in New York》

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雪景色のニューヨーク、雑踏の中、傘をさして歩くスティング。彼と交互に映るのは、品の良い白髪の老女。彼女は何かを語っている。

スティングは、イギリスのロックバンド 「ザ・ポリス」のベーシスト兼ボーカリスト。俳優としても活躍し、1984年、ポリス活動休止後はソロ・アーティストとなりグラミー賞など数々を受賞。国際的な人権保護運動や熱帯雨林の保護活動など、常に社会的メッセージを発信し続けている。

1987年にリリースされたスティングの2枚目のアルバム『Nothing Like The Sun』。その中の『Englishman in New York(ニューヨークの英国人)』は、翌年シングルとしてリリース。そのミュージック・ビデオが、今でも私のベストワン。シンプルな映像は、モノクロのコントラストが美しく、どこを切り取っても絵になる。印象的な裏打ちのリズム、ソプラノサックスの物哀しい一音で始まり、スティングのハスキーかつ透き通るヴォーカルは、ジャジーなアレンジでニューヨークの街へ誘い、都会の孤独を奏でる。

「老女」と見えたのは、世界のゲイカルチャーの先駆者として知られる伝説的人物クエンティン・クリスプ。1908年にイギリス郊外で生まれ、幼い頃から女性らしい外観と振る舞いで嘲笑の対象であった。1930年、ロンドンに移住。敵意と暴力、差別や偏見が渦巻く当時の同性愛嫌悪の英国社会。男性同士の性的行為は、イングランドでは1967年、スコットランドでは1980年、北アイルランドでは1982年まで犯罪であった。その中で、女装するゲイとして堂々と街を闊歩して生きてきたクリスプ。半生を綴った自伝がテレビ映画化され全米で大ヒットとなる。スティングは、彼の生き様や人柄に惹かれ、71歳という高齢でアメリカに移住したことにも感銘を受け、この作品を書いた。同じようにニューヨークに来た自分自身とも重ねていたのだろう。

「Be yourself no matter what they say.  自分らしくいるんだ 誰が何と言おうとも」

人種の坩堝……ニューヨークへ初めて行ったのが、このアルバムが出た頃の冬。歩いていてもエレベーターでも「sorry!」という言葉をよく聞いた。日本のように不満顔で舌打ちしていたのでは、異人種は共存できない。この曲は、ジャズ、レゲエ、ロック、ヒップホップと様々なジャンルの音楽的セッション。アイデンティティを探しながら生きる冬の街には、異邦人たちのノスタルジーがよく似合う。

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