🎥美学No.96《ルキノ・ヴィスコンティ》

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ルキノ・ヴィスコンティは、名前の前に「モドローネ伯爵」がつく正真正銘の貴族である。そして、映画監督。イタリア・ルネッサンスの歴史に深く関わった見事な家系に生まれ、幼少期は14世紀に建てられた古城に住み、小学教育は家庭教師から受けた。日曜日の午後はスカラ座のボックス席で観劇することが定められ、邸内に作られた舞台ではコンサートや芝居が上演された。この環境で芸術に興味を持たないはずはない。部屋の家具や調度品は超一流。数々の美術品が彼を囲んでいただろう。生粋の、筋金入りの、一筋縄ではいかない審美眼は当然のごとく育てられたはずだ。

初めて彼の映画を知ったのは二十歳の頃。中野名画座で観た『地獄に堕ちた勇者ども』。「耽美」「退廃」「倒錯」というデカダンスが一気に私の中に濁流のように押し寄せ、世の中に秘そんでいた未知の世界にショックを受け、中野の街を一人、呆然と歩いた。三島由紀夫が絶賛したこの映画は、1933年、ナチスが台頭した時代に強大な権勢を誇る男爵一族の崩壊を描いている。主役の一人、ヘルムート・バーガーの危うさは、新しい美の発見だった。軍服に隠された背徳を耽美な魅力で覆い隠せるのは彼しかいない。審美眼に裏打ちされた映像美は、完璧主義者ヴィスコンティそのもの。没落の美学は、彼自身への戒めだったのか……。

次に観たのは『若者のすべて』(原題は「ロッコと彼の兄弟たち」)。1940年代から1950年代にかけて、映画と文学の分野で盛んになったイタリア・ネオリアリズムの集大成的作品。イタリア南部の貧しい家族が成功を夢見てミラノへ……そして知る現実の厳しさ。「他の俳優を強制されたら、この映画は撮らない」と、監督の強い思い入れがあったアラン・ドロンが主役。彼がとにかく美しい。彼の切ない美しさが輝いている。まさに掃き溜めに鶴!まさに耽美!!ドキッとさせる一瞬の眼差しに、恋心が音を立てる。

美少年への想いを募らせた老作曲家の苦悩を描いた『ベニスに死す』。ギリシア彫像のような美少年を求めて、ヴィスコンティはヨーロッパ中を探し歩いた。美を求めてやまない妥協なしの追求は、時には残酷でもあっただろう。抜擢されたビョルン・アンドレセンの美少年ぶりは、映画界の歴史を刻む。

「真の《気性》が存在する俳優は、映画の一コマを充たす唯一のもの」ヴィスコンティが最も情熱を抱いていたのは、俳優との仕事だった。美の追求が自身に注がれた俳優達……フィルムに収められた彼らは、刹那の美を永遠に授かったことは間違いない。

映画評論家の淀川長治は言い得ていた。「ヴィスコンティの映画を観て、芸術のシャワーを浴びてください」

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