🎼美学No.81《シュガー・ベイブ》

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1972年、四谷にあったロック喫茶で山下達郎と大貫妙子が知り合い、73年「シュガー・ベイブ」結成。75年に大瀧詠一が設立したナイアガラ・レーベルの第一弾作品としてアルバム『SONGS』発売。そして76年に解散。たった3年の活動だった。唯一のアルバムは、全曲美しいコーラスワークを配した、当時22歳の山下達郎のアレンジ。

このアルバムが発売された当時、私は絵を描く仲間達と集い、遊んでいた頃。皆、感性のアンテナを尖らせて、ビビッと来た音楽に出逢うと、そのレコードアルバムを片手に仲間達の家に向かった。そして、自慢げに皆に聴かせる。その中の1枚がこのアルバムだった。レコード針を置いた瞬間、ドロドログダグダな気分は晴れた!暗く湿った茶色の木造アパートは、真っ白な明るいマンションの一室に!!新しい世界の扉を開いたシュガー・ベイブは、私達にとって当然だった。

なので、びっくりした。今、検索してみると、当時は「全く売れなかったアルバム」とある。1975年、売れたとか売れないとか、つまり、世の中に支持されているかどうかは、一般人には分からなかったし、どうでも良かった。むしろ、誰も知らない良いモノを知っていることは、文化のステータスでもあった。

当時はハードロックやブルース全盛、激しいシャウトや泥臭さに傾倒していた時代。なので、ロックシーンでは「軟弱」とされ、異端の存在であったらしい。「セールス的には大きく低迷。的外れな評論や中傷も数多く受けていた」とも書いてある。不思議だ。その時代にしっかり生きていたのに、私はそれを知らない。

「汚れやすいざらりとした手触りの紙を選んだのは、指の跡が沢山ついて、ボロボロになるまで聴いてくれたらという思い。イラストの周りの白い枠状に、1回聴く度に手垢が付いていくように」ジャケットデザインをしたのは、山下達郎の友人でデザインを学ぶ学生。彼の感覚は愛おしい。確かに、このアルバムの紙は表面に凹凸があり、そして白枠は、だんだん汚れていった。手の感触と目でも覚えているレコードアルバムは、CDには無い記憶の豊かさがある。

現在では、シュガー・ベイブは日本の音楽史上非常に重要なバンドで、アルバム『SONGS』は70年代の名盤の一つと認識されている。軽いことが✖️の時代があり、重いことが✖️の時代もある。シーソーのような表裏一体の吊り橋を時代は歩く。50年前の若者達の音楽は、今また忘却の扉を開いてくれる。

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