🎥美学No.56《オール・アバウト・マイ・マザー》

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「女優を演じた女優達、すべての演じる女優達、女になった男達、母になりたい人々、そして私の母に捧げる」スペインを代表する映像美の鬼才ペドロ・アルモドバル監督のメッセージ。

結婚、出産、育児……家族を作って生きる。でも、離婚したり、伴侶や子供が亡くなることもある。好きな仕事をして自由に一人で生きる。でも、加齢は仕事を奪うこともある。「女性」というセクシャリティとして生きたい。でも、子供は産めない。そんな女達が登場する。息子を亡くしたシングルマザーのマヌエラ。女優でレズビアンのウマ。エイズに冒され、妊娠したシスターのロサ。そして、明るいゲイの娼婦でマヌエラの無二の親友アグラード。彼女が逸脱!こういうセクシャリティの男優かと思いきや、女優。女性が女性になりたいゲイを演っているのだ。

女たちがマヌエラの部屋に集まり、陽気にお喋り。「ペドロにとってインテリアデザインは映画のもう一人の主人公」と長年のパートナーである美術監督が語るように、部屋の壁紙、食器、家具etc.どれをとっても、センスが生かされていて、どんな画を創りたいか!が、はっきりしている。色のセンスが大好きな監督ナンバーワンだ。劇中マヌエラは「女はみな潜在的にレズビアン」と話す。「女同士には生まれながらの親切のようなものがあって助け合っている」と語る監督の実感なのだろう。

素敵なレストランで友人達に囲まれ、ワインと美味しい食事。頼りになる夫と可愛い子供達。四季折々の行事には、家族や友人達と集い、陽気な笑い声をあげる。ファッションと美容にはこだわりがあり、自分磨きにお金もかける……ブログやインスタ、Facebookでアップされているそんな女性達を羨ましいと感じ、そうなっていない自分に「私の人生って……」と落ち込んではいけない。誰もその裏にある苦悩や大変さはお披露目しないのだ。お金は稼ぐが、男尊女卑のワンマン夫に我慢しているかもしれない。幼少時は手の内にいて可愛がれたが、今は反抗期真っ盛りの息子と格闘しているかもしれない。自分のことを「知らない人」という老母を介護しているかもしれない。

日々の90%が辛くとも、残りの10%にある、誰にも味わうことの出来ない深い喜び。それを愛でてあげられる生き方をしたいものだ。家族になれるのは、血の繫がりだけではない。この映画に登場する、痛みの分かる女達……私には素敵な家族に見えた。母になった女達、母にならない女達、母になれない女達……その全てに母がいる。

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