📖美学No.54《ジャズ・カントリー》

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ナット・ヘントフ 著

ジャズ評論家であり、1950年代から1960年代に全米で起こった黒人の権利と人種差別撤廃を求めた公民権運動にも関わったナット・ヘントフが書いた小説。1964年に出版され、全米青少年の共感を呼び「最高の青春小説」と絶賛された。

1925年生まれのヘントフ、同い年に黒人解放指導者のマルコムX、4歳年下に公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キングがいた。「I have a dream.」と、平等な社会を夢見た演説は、今でも私の心にある。1965年にマルコムX、1968年にキング牧師は暗殺される。ジャズという音楽に惹かれていたからこそ、当時のアメリカの抱えていた人種差別という問題は、ヘントフの活動に大きな影響を及ぼしたのだろう。

トランペットに夢中の16歳の高校生トム・カーティス。「ミュージシャンになりたい」と、グリニッジヴィレッジのジャズメンの世界にとびこむが、彼は白人。黒人が創ったジャズの世界、そこに入れるパスポートはない。白人と黒人の世界の狭間で、青い感性は揺れる。

《僕は僕自身でありたいんだ。僕以外の何者にもなりたくない。》

トムの父親は弁護士。ホワイトカラーの家庭に育ったトムは、高校から大学進学へのレールは当たり前に用意されている。大学に入れば、そこから弁護士だろうが大臣だろうがどんな職業に就くことも出来る。将来の可能性は無限大だ。憧れていたジャズマンがいるバンドから誘いがかかる。大学進学か否かを考えていたトムに、友人の黒人ジャズマンは言う。「黒人のミュージシャンはたくさんいる。大学へ行こうと思えば行ける自由を持っていない連中だ。君がバンドに入るということは、黒人から仕事をひとつ取りあげることだ。」

《君が何者かってことだ。君は何も生い立ちを物語ってやしない。》

本書の会話によく出てくる「ヒップ」「スクウェア」という言葉。《ヒップ=スウィングしうるもの。社会から自立して勇気と知恵をもって体制に呑みこまれないもの。スクェア=ジャズのわからない奴。無邪気な正直者。社会体制の規則にきちんと従う人。》最後の「注」に書かれている定義。黒人のスラング英語。「あなたはヒップだね」と、上京したての18歳の私に年上の友人が言った。そういえば彼女もジャズが好きだった。

あとがきに紹介されているナット・ヘントフの著書「ぺしゃんこにされてもへこたれないぞ」に、太い万年筆で思いっきり線が引いてあった。東京で一旗!?の意気込みか……青春の私。

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