📖🎨美学No.51《子どもの本・1920年代》

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1991年、東京都庭園美術館で『子どもの本・1920年代展』が開催された。これはその時の図録である。展覧会に行くと、内容が気に入れば必ず図録を買う。その中でもこの本は一番のお気に入りだ。

言論の自由、男女平等、自由教育など様々な分野で展開された運動「大正デモクラシー」が1910年に起こった。その流れから1920年代に入り、子供の個性と創造性を解放しようとする児童雑誌が相次ぐ創刊となり、一気に花が咲いた。

《世の小さな人々のために芸術として真価ある純麗な童話と童謡を創作する最初の文学運動である》『赤い鳥』を創刊した鈴木三重吉の宣言。

『赤い鳥運動』に賛同、寄稿したのは、北原白秋、芥川龍之介、泉鏡花、有島武郎、谷崎潤一郎、島崎藤村、森鴎外、宇野千代、林芙美子、室生犀星、小山内薫、菊池寛、西条八十、佐藤春夫、山田耕筰、井伏鱒二……近代日本文学を創った蒼々たる顔ぶれだ。才能ある作家・作曲家・画家を一堂に協力させた編集者としての鈴木三重吉の腕前は見事。その影響を受け、次々と児童雑誌が創刊、日本の児童文学の世界は大きく飛躍した。

1922年『コドモノクニ』が創刊。美術・文学・音楽を三本柱にし、大判で画面に枠をとらず見開き。アインシュタインが来日した際に持ち帰ったことでも知られ、海外にも輸出された。この雑誌から、童画という呼び名も生まれ、大判になったことで、画家達の発想がより自由になり、竹久夢二、東山魁夷、藤田嗣治、初山滋、脇田和らが活躍した。

この本に載っている絵や文を見ていると、斬新で美しく、夢があり 、幸せな気持ちになる。と同時に、現代では真似出来ないだろうなと、ため息が出る。芸術家達がこぞって一心に、子供に見せたい、読ませたい、聴かせたいものを必死に考える。一冊すべてが、魂をこめた創作なのだ。

マーケティングを考慮し、データを取り、ターゲットを絞り込んだ利益主義の「商品」、情報収集と広告媒体としての雑誌ではなく、純粋に「こうあるべき」という思想のもと、才能ある者達を協力させてムーブメントを創り時代を動かす。そして100年が経ても作品は色あせない。現代に生まれている文学・音楽・美術作品は、100年後に一体どれだけ残って人を感動させることができるのか。誇りを持つ仕事として、芸術が生きた時代。羨ましい限りだ。

子供が子供であり、大人が大人であった時代……子供に見て欲しいものを、大人は大人として選んだのだ。

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