🎥美学No.47《汚れなき悪戯》

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「幼気」……いたいけと読む言葉。見ていると心が痛くなってしまう様子「痛い気」が、幼い子供の愛らしさを表すことで変化したもの。確かに、小さな子供が必死に頑張る姿は、愛しいと同時に心が痛む感じがある。我が子でなくとも、幼子が運動会で必死に走る姿には涙してしまう。

1955年製作のスペイン映画、原題《パンと葡萄酒のマルセリーノ》は、まさに幼気を描いた作品。「おはよう、マルセリーノ……」と歌われる主題歌は、当時の日本でも大ヒット、今でもよく覚えている。

12人の僧侶がいる村の修道院に捨てられていた乳飲み子の男の子。貰い手を探すも見つからず、修道院で育てることになる。子育てを知らない僧侶達だが、可愛い悪戯に目を細めながら、愛情を持ってマルセリーノを育てる。ある日、マルセリーノは、誰にでも母親がいるということを知る。まだ知らぬ母親という存在は、小さな胸に刻み付けられる。マルセリーノには禁止されていることがあった。「二階には大きな人がいて、お前を連れ去ってしまうから行くんじゃないよ」だが、興味津々のマルセリーノは二階に上がる。そこには大きな十字架にはり付けされたキリストの像があった。やせこけたその顔を見て、「お腹が空いてるの?」と話しかける。食堂からこっそりパンを盗み、また二階に上がる。パンを差し出すと、キリストは受け取る。それから、マルセリーノはパンと葡萄酒を持って、キリストと話をするようになる。ある日、キリストが一番の望みを聞く。「ママに会いたい」……キリストはマルセリーノの願いを受け入れ、哀しい奇跡を起こす。

1952年製作のフランス映画『禁じられた遊び』も幼気な名画。音楽予算が足りず、当時20代だったナルシソ・イエペスがギター一本で演奏したテーマ曲は、今でも弾き継がれる名曲。戦争で孤児となった5歳の女の子ポーレットが主人公。「死んだらお墓を作るんだよ」と、少年ミシェルに教えられ、死んだ愛犬のお墓を作る。ひとりぼっちは可哀想だと、どんどん動物の亡骸を集めてお墓を作り、ついには十字架を盗んでしまう。孤児院に行くことになったポーレットは、ミシェルの名を呼びながら雑踏に消えて行く。

大人によって運命を左右される子供。その魂に邪気が訪れるとしたら、それは先陣の大人が作った社会だ。死の意味さえまだよく分からない無垢な表情に、胸を締め付けられる。幼気さに涙する感情は、神様がくれた、心を洗う薬なのかもしれない。

 

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