🎥美学No.27《おもちゃの国》

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ドイツにとって重たい歴史「ホロコースト」の悲劇を14分の中に描いたドイツ製作の短編映画。このテーマをドイツが創ることに、時代を経て辿り着いたクリエイションの意義を感じる。2009年アカデミー賞短編実写映画賞を受賞。

マリアンは、幼い息子ハインリッヒと2人暮らし。同じアパートに住むユダヤ人一家と親しくしていた。その息子のダヴィットとハインリッヒは共にピアノを習っている。そんな仲良しの彼らに別れが迫る。ナチス・ドイツのユダヤ人強制収容所への移送だ。マリアンは、「ダヴィットは何処に行くの?」と息子に聞かれ、「おもちゃの国」と嘘をつく。ダヴィットと一緒に「おもちゃの国」に行きたいハインリッヒは彼らに付いてトラックに乗ろうとする。が、ユダヤ人ではない彼は当然乗れない。一方、マリアンは息子がいないのに気づき、駅へ走る。「ドイツ人の息子を捜している」というマリアンの訴えに、死に向かうユダヤ人移送列車の扉は開けられる。ダヴィット一家を見つけるも、そこに息子はいない。瞬時に彼女が起こした意外な行動に、人としての偉大な勇気と愛を見る。

人類が忘れてはならないホロコーストの悲劇を扱った映画は、今なお数多く作られ続けている。暗く難しいテーマをどうしたら人に伝えられるか。一番言いたいことは何か。対象の題材が大きければ大きいほど、どこに焦点を当てるか、監督のセンスが必要だ。物語は時系列ではなく、無駄のない印象的なシーンが混ざり合って構成されている。カメラワークの美しさに加え、音楽が素晴らしい。五月雨の涙のようなピアノの音色は、一瞬にして日常から作品の世界へ誘う。テーマ曲は、しんしんと心にし染み入り、ファーストシーンとラストシーンで、しっかり物語の役割を果たす。短編映画ならではの魅力、そして、観た後の気持ちをちゃんと想像している映画だ。

14分でホロコーストを描く、大いなるチャレンジは大成功を収めた。この作品には、考えに考え抜かれた思慮がある。残酷な史実を美しい音楽や、削ぎ落とした切り口で訴える。創り手のセンスを直球で投げ、最終的には観る人の想像力に委ねる潔さ。人のイマジネーションを働かせ、心を揺さぶる監督の手腕は見事だ。

創造し、世に発表するということ……それは、創り手の根底にあるゆるぎない熱情と、真摯な謙虚さがあってこそ。時代に残る、品格あるクリエーションとはこういうことだ。

以下のyoutubeで英語字幕版をみることが出来る。ぜひ、観て欲しい14分。

 

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