👗美学No.18《ワルツ衣装-1》

By waltzblog 2 comments

黒のロングティアードスカート。これが『ワルツ』のために初めて創った衣装。クラシックバレエを基にしたストレッチ、バー・アスティエを踊る衣装としては、8年前はパンツが当たり前だったらしく、分量の多い長いスカートが衣装として出来上がり、坂東祐子さんはビックリ。私としては、身体の動きと共に布が踊るイメージ。美しく見せるためには、布さばきが必要となってくるので、決して踊る本人が楽に動けるためのものではない。なので、「この人なら大丈夫」という信頼関係がないと、衣装は託せない。衣擦れの音を感じることは、分量の多いロングスカートならではのものだし、空間を占める美術的要素もある。身体を見せることよりも、衣装の中に在る身体の動きが創り出す布の表情に焦点を当てた。動きと共に、足に巻き込まれて布が創るフォルムもまた、動いてどんな形が出来るのか分からない、本番にしか表れないデザインとして、秘かな楽しみだ。

衣装は、普通に着て歩くファッションとは違うので、動かないでいるときのシルエットと、動いたときのシルエットを想像しながらデザインを考える。2014年に近江楽堂(東京オペラシティ)で開催した公演の島田歌穂さんの衣装は、語り、歌う姿が美しく見えるようにデザイン。島田さんとは、コンサート衣装などを沢山創らせて頂いていたので、彼女のするだろう表現は想像しやすかった。手の動きも一つの表現手段なので、それを生かしたデザインに。素材は麻。天然繊維は当然シワが寄りやすいのだけれど、それも人が着ていることの味わいとして好きである。

『ワルツ』は、私が書いた作品。プロデューサーでもあるので、衣装担当とは言え、イメージの制約は受けず自由に考えて創っている。ただその反面、自由はかなり難しい。数限りなくある色、素材、フォルム……どれを使っても良し!ということは、何が一番良いものに仕上がるかの選択は私一人の考えに委ねられている。同じ公演で語りの三田和代さんの衣装は、島田さんと対照的に、フォーマルな黒のシンプルなワンピース。ほぼ椅子に座っているので、主張があるのは胸元のみ。飾りを一つ一つピンで置いてみて、デザインをしながらとめたもの。

衣装合わせは、いつも緊張する。人は騙せても、自分の目はごまかせない。最初の衣装付きリハーサルは、目を皿のようにして細部まで見る。そして、衣装そのものよりも、それを身にまとっている人が魅力的に見えたとき、私の役目は終わる。

2 Comments

坂東祐子

6月 6, 2021, 4:07 pm 返信

懐かしいワルツ初演の衣装の写真!!
バー・アスティエを踊る際は床に座ったり寝た姿勢で脚を広げる、上げる…当然パンツとかタイツだよね~とずっと思っていた私に、
宮本さんがワルツで渡してくださった衣装はまさかのロングスカート…
驚きながらも初めて身に着けたとき、動きにくいかどうかより「なんて素敵な衣装!」ということと、採寸もした覚えがないのに完璧なフィット!!
でも実際身に着けて動いてみると、、、やっぱり難しい!動きずらい!裾を踏みまくり(笑)でした。
しかし、練習を繰り返すうちにだんだんと…不思議なことにこの衣装は「身体に応えて」くれるのです。
本気で心の底から感じたものが骨や筋肉を伝って動作として表に現れる時、まるで私の心の内を表すかのように複雑なひだや美しいラインを生み出してくれる。
衣装と戦うわけではないけれど、全てを吞み込んでしまいそうな生地の重さ、スカートの長さに圧倒されながら、文字通り必死で全身全霊で踊る体験は
私にこれまでと違う、新たな境地を見せてくれました。

パフォーマンスを実演するのは紛れもなく肉体ですが、そこに込めた「すべて」を自分が思い切って外に出すために、宮本さんの衣装と言う良い意味で「負荷」がかかると、
自分でも驚くほどのエネルギーを発せられるのです。
デザイナーが選ぶ生地、生み出すデザイン。
衣装デザイナーは「衣装を作る人」ではなく、「作品を共に完成させるアーティスト」なんだと、私は宮本さんを通じて知りました。

初演のこの衣装にほれ込んで「一生この衣装だけあればいい!ほかの衣装はもう着ない!」と思っていたにもかかわらず、
攻めるアーティスト、宮本尚子は、この何倍も負荷のかかる衣装を、ワルツで再び私に与えてくれるのでした(笑)

waltzblog

6月 6, 2021, 5:38 pm 返信

「負荷」…大事です(笑)
坂東さんなら、当然出来る!!と考えてのロングスカート。もっと、もっと、新たな領域を見たくなり、2014年、そして、2017年の衣装は攻めました(笑)
「👗美学ワルツ衣装-2」も書きます。お楽しみに!