🎥美学No.4《いちご白書》

By waltzblog 2 comments

中学2年の夏、「凄くいい映画だから観たほうがいい」美大に通う兄を持つ友人はそう薦められ、私を誘った。それが『いちご白書』。ラストに流れる『サークル・ゲーム』(作詞・作曲:ジョニ・ミッチェル )を聴きながら、私は呆然としていた。感動で涙が出るんだ……と知った、忘れられない映画である。

映画全編に流れるニール・ヤング、ジョン・レノン、ジョニ・ミッチェル、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの曲は、1970年代の繊細さを感じさせ、1970年代の繊細さを感じさせ、映画の中で「語る音楽」を初めて認識できたのもこの映画だった。

1960年代後半から起こった Student Powerと呼ばれた学生運動は、中国の文化大革命、フランスの5月革命、日本でも全共闘運動などがあり、アメリカではコロンビア大学紛争があった。映画の原作は、当時のコロンビア大学生が19歳のときに綴った日記形式のノンフィクション。

ノンポリ派のサイモンと恋人リンダを中心に大学紛争を描く。「ただのゲームより闘争こそ真実よ」と恋人に言われ、サイモンは今までの自分にはなかった角度で大学や社会を見るようになる。傍観者ではいられない理不尽な状況を見て、学生運動にのめり込んでゆく。遊園地を軍事施設に立て直すことに反対した仲間達と大学を占拠し、講堂で円陣を組む。床を叩きながら皆で歌うのは、ジョン・レノンの『 Give Peace A Chance 平和を我らに 』。そこへ機動隊が突入、催涙ガスをまき、学生をこん棒で殴り、武力行使によって彼らを強制排除する。

自分のことだけで頭も心も一杯の中学生は、自分以外のことに心を砕き、社会問題を提議し、平和を願い、それと闘うアメリカの大学生がとてもカッコ良く見えた。彼らの行動を権力と武力を使って阻止しようとする「大人=体制」に理不尽さを感じて悔しかった。「大人って汚い!」「大人ってずるい!」中学生の少女がそう感じるのに十分だった。

今、「大人」を何十年もやって、その悔しい心は年月を越えて生き続けているか。仕方がないね、そんなもんだよと、訳知り顔で諦め、素直な感情に目をつぶってはいないか。遥か忘却の彼方に、置いて来てしまった大事なものはないか。

ラスト、恋人が機動隊に殴られ、連れて行かれる様を見て、そこに向かってダイブするスローモーション……そして音楽。

♫ 季節は何度も巡る 時という回転木馬に乗せられたまま

  もう戻ることができず ただ自分の通ってきた道を振り返るだけ ♫

 

2 Comments

坂田晃一

4月 4, 2021, 7:15 pm 返信

いちご白書・・・・・。

全共闘運動が華々しかった頃、私は既に20代後半にさしかかっていたが、学生達の闘争に強くシンパシーを感じていた。しかし、私自身が闘争主体ではないことに悔しい思いでいた。
そのような状況で観た「いちご白書」は、とても印象深いものであった。宮本さんのこのブログを読んで、懐かしく、なぜか切ない思いに囚われる。

当時は、大学も社会も改革が進むだろうと希望を抱いていたが、とんでもない、殆どの改革は挫折させられ、更にその後、日本社会は特に近年、退縮の一途を辿っているように思える。
自由も、人権も、民主主義さえも、暗に押さえ込もうとする歴代保守政権の巧みな企みが次々と法制化され、反対の声をあまり上げることのなくなった国民を、彼らはどこに連れて行こうというのだろうか。日本の未来は不安だらけだ。

知的な蓄積のない人たちが為政者であることの結果なのであろう。
不幸なことだ。

戦前の、あの無謀な戦争に突き進んでいった頃の状況に酷似しているということまで言われ出している。
怖い。

“「いちご白書」をもう一度”ではなく、
“「いちご白書」の時代をもう一度”、という思いに駆られる。

waltzblog

4月 4, 2021, 8:35 pm 返信

坂田先生、コメント、ありがとうございます。
「いちご白書」……誰も知らないかなと思いながらも、私が初めて価値観を揺すぶられた映画だったので、アップしました。
今、まさに、忘れてはいけないことがある!!映画を思い出しながら、自問自答してしまいました。