🎥美学No.110《リヴァプール、最後の恋》

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「最後の恋」という言葉は女性のものではないだろうか。結果的な最後ということだけではなく、「きっと、これが最後……」と、意識してする恋。仕事、結婚、出産、育児、離婚……数多の経験をし、自分をよく分かった上で挑む恋。そんな恋の物語の始まりは、ハリウッドミラーが輝く化粧前。皺の目立ってきた顔に、つけまつげ、ウイッグ、口紅……と、女優の顔になっていく主人公を演じるのは、5度のアカデミー賞ノミネート歴を持つ女優アネット・ベニング。

1952年の映画「悪人と美女」でアカデミー助演女優賞に輝いた往年のハリウッド女優グロリア・グレアムは、4度の結婚で恋多き女としても知られた。57歳で乳癌で亡くなったが、彼女の晩年に寄り添ったのが、当時駆け出しの若い舞台俳優ピーター・ターナー。彼の実家があるリヴァプールで家族と共に彼女の面倒を見た回顧録『Film Stars Don’t Die in Liverpool』が、この映画の原作。

グロリアに尽くす若き恋人ピーターをジェイミー・ベルが、そして、ピーターの母をジュリー・ウォルターズ。この二人、どこかで見たことがあるなと思ったら、バレエダンサーに憧れる少年を描いた映画『リトル・ダンサー』の主人公とバレエの先生役の二人だった。本作では親子役で17年ぶりのコンビ。グロリアの母をヴァネッサ・レッドグレイヴが演じ、脇を固める俳優達も印象的だ。

映画館で二人が観るのは、グロリアのリバイバル映画。彼女は輝く昔を観ている。若い恋人は「あのスクリーンの中の銀幕スターが隣に」と、感慨深く彼女を見つめる。そんな彼をクスッと微笑むグロリアが可愛い。貫禄を見せるスターの顔と、年輪を刻んだすっぴんの顔が交互に登場するのだが、とても魅力的なのだ。人生の荒波を生きて「今」があるんだなぁと愛しい。この愛しい気持ちが、若い恋人が感じた「恋」なんだろう。

病気の進行によって身体が衰弱したグロリアをピーターは観客のいない劇場へ連れて行く。舞台には椅子が二脚とシェイクスピアの台本。「この卑しい手が聖堂を汚したのなら償います」ロミオとジュリエットが初めて会い、手を重ね、口づけを交わす第1幕5場。若い俳優が大スターと最初で最後の共演をする。愛しい人に演技する女優グロリア、堂々たる顔は誇りに満ちて美しい。

どこで終わりにするかを決められるのも、散り際を知っている「大人の恋」。「最後の恋」は、覚悟を持っての「恋」なのだ。

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