🎥美学No.105《少年の君》

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真っ直ぐな視線が心を射抜く。頼る大人のいない孤独の中で、必死に出口を探す少年と少女。ヒリヒリする純真に、息苦しくなるほどだった。

2019年公開、香港のアカデミー賞と言われるアワードで8冠を獲得、第93回アカデミー賞国際長篇映画賞にもノミネートされた中国・香港合作の映画。壮絶ないじめ、苛烈な受験戦争、母子家庭、子供の貧困など社会問題を描き、多くの共感を得た。その立役者は文字通り主演の二人。中国で『13億人の妹』として親しまれる、撮影当時26歳の女優チョウ・ドンユイと、国民的アイドルグループのメンバーで、本作が初主演、18歳のイー・ヤンチェンシー。

貧しい母子家庭に暮らす少女チェン。母親は、彼女の学費のため犯罪まがいの商売をしていて、たまにしか家には帰って来ない。いじめが横行する進学校で、大学受験を一ヶ月後に控え、受験だけに集中しようと必死だった。今の暮らしを抜け出すには、有名大学に合格して道を切り開くしかない。そんな中、クラスメイトがいじめを苦に飛び降り自殺。傍観者だったチェンは、警察に「いじめ」を話す。次にいじめの標的になったのはチェンだった。

ある日、不良たちにリンチされるチンピラの少年シャオベイに出逢う。孤独な二人は心を通わす。少年は少女を守るため、学校の登下校に付かず離れず、後ろをそっと歩く。「いつか、並んで表通りを歩けるよ」小さな希望が芽生える。

「痛い?なんて初めて聞かれた」母親に捨てられた少年の言葉は、当たり前を知らない寂しさが漂う。《ドブに住んでいても、星空を眺める者はいる》チェンのノートに書かれた言葉に「ピュアだな。甘いよ」と言いながらも、少年は少女に一筋の光を見る。

少年が留置所に入れられた日、少女は女生徒達に髪を切られ、制服を割かれ、裸にされて動画を撮られる。無残な姿になったチェンの髪を涙を流しながら坊主にするシャオベイ。そして、自分の頭にもバリカンを入れる。若い僧侶になったようなピュアな顔が画面に映る。哀しい記念日をスマホで撮る二人。

「勉強して、いい大学へ入る。そして、賢い大人になって答えを見つける。もしできるなら、世界を守りたい。」

「君は世界を守れ。俺は君を守る」少年は、社会の掟を欺く哀しい嘘を少女につかせる。それは、いたいけな愛の秘密だった。

「君が成功すれば、負けないですむ」少年と少女は、未来への涙をたくさん流す。心細さに震えながら、どしゃ降りの雨の中を歩いているような二人。必死に生きるピュアな表情がいつまでも心に残り、思い出すたび目頭が熱くなる。

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