🎥美学No.98《タンゴ・レッスン》

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映画監督サリー・ポッターはイギリス・ロンドン出身。脚本家、作曲家、そしてダンサーでもある。14歳の頃から映画作りを始め、16歳で学校を中退、短編映画を制作。その後、コンテンポラリーダンス学校で教え、25歳のときにダンス・カンパニーを結成。そんな彼女が撮ったのが、1997年公開、自ら脚本・主演による『タンゴ・レッスン』。その名の通り、自身のタンゴレッスンの経験をもとに描いている。相手役のダンサー、パブロ・ベロンも本人役で登場。

新作映画の脚本を執筆中の映画監督サリーは、気分転換に出かけたパリの街でアルゼンチンの有名タンゴダンサー、パブロ・ベロンの舞台を見る。心を奪われ、彼から1度だけレッスンを受ける。その後、自らブエノスアイレスを訪れてレッスンを重ね、上達した彼女は再び彼の前に姿を現す。

冒頭、タンゴが流れ、白い丸テーブルを拭く女の腕が映る。モノクロのスタイリッシュな構図……一目で「好きな映画!」と分かった。創作を仕事にする女には、こだわりがある。まず部屋を綺麗にして、自分を奮い立たせ、いざ、脚本執筆と紙に向かう。「経験はないけど意欲はあるわ」初対面のパブロにレッスンを頼む。40代後半の彼女が美しい。その美しさは、好きな仕事で闘い、行動する女性としての年輪。作品をゼロから生み出し、人に指示を与える仕事の日常で「習いごと」は、自分を謙虚に邁進させるリフレッシュの特効薬。当時、ファッションブランドを経営していた私はすっかり感情移入。タンゴ・レッスンするサリーになっていた。

パブロとペアを組んだサリーの初舞台。終演後、怒りの表情で彼は言い放つ。「力と強さを混同するな!そっと力強く、ゆっくりと素早く!俺の邪魔をするな!」この言葉は、表現のプロであるサリーにもよく分かるはず。が、「あなたは私を見てくれない、自分のことしか考えない!」と、恋する心が邪魔をする。

ダンサーになるのが夢だった映画監督と、映画に出るのが夢だったダンサー。そんな二人が夜の街でタンゴを踊るシーンがある。ステップは愛の喜びで力強くも軽やか。身体で音楽を奏でるように、官能を踊る。相思相愛の身体表現!タンゴを踊れるカップルって、こんなことができるんだ……。

「タンゴではあなたに従った。映画では私に従って」彼を映画に撮ろうとするサリーは言う。創作と自我と恋のトライアングル。ラスト、「You are me. I am you.」  サリーは歌う。

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