📖美学No.97《はせがわくんきらいや》

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著作:長谷川集平

1976年、第3回創作絵本新人賞を受賞。1955年、森永乳業が製造した粉ミルクにヒ素が混入し、これを飲んだ西日本地域一帯の乳幼児がヒ素中毒になり、多数の死者・被害者が出た。この絵本は、その粉ミルクを飲んだ「はせがわくん」をクラスメイトにもつ「ぼく」の話。

インパクトあるタイトルと絵に惹きつけられて、思わず手に取った。本の内容以外にも衝撃を受けたこと、それは当時、作者が私と一歳違いの二十歳だったことだ。なんだか、同じ考えを持つ友人がどデカイことを成し遂げた!そんな感じがしたのだ。大胆な絵の構図は、行き当たりばったりではない、しっかりした意図が感じられた。それは、「森永ヒ素ミルク中毒事件」という社会的な問題定義ということではなく、「愛って何?」をドーンと投げつけられたような感じ。人が人に興味を抱き、気になり、それを態度で表し、関係を持ち、好きになるということ。「しんどうてかなわんわ」「大だいだいだいだあいきらい」と言いながら、手を差し伸べるということ。本当のことしか描かれていない凄い絵本だ。

長谷川集平自身もヒ素ミルクを飲んでいた。食が細くて痩せっぽちだった彼は、それがヒ素ミルクのせいかもしれないということを中学生になるまで知らなかった。事件直後から被害者家族への差別が始まる。この理不尽な差別は、今でも色々な場面で遭遇する。

私が小学生の時代、家が貧しい子供は、ツギがあたり、色あせた洋服を着ていた。5年生の時、転校してきた私に初めて話しかけてくれたとりいさんもそうだった。「汚い」「そばに寄るな」「バイキン」といじめられていた。とりいさんが初めて休んだ日、担任の先生はクラス全員を屋上に連れて行った。「ま、みんな座れ」と、先生を囲んで冷たいコンクリートに体育座りした。「とりいのお母さんが亡くなったんだ」先生は言った。それから先生もクラスメイトも誰も言葉を発さなかった。みんなで、ずーっと空を見ていた。思い思いに、とりいさんの顔を浮かべ、自分の母親の顔を空に浮かべていたことだろう。数日経ってとりいさんが登校した。香典返しの白いハンカチがみんなに配られた。一人一人に手渡しするとりいさんは、みんなが小さな声で「ありがとう」という言葉に、今まで見たことがない笑顔だった。「切ない」という感情を初めて味わったのはその時だった。大きな教育だったなと思う。

長谷川集平の描く長谷川くんを見ると、「わかった、わかった」と、手を差し出したくなる。

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