🎼美学No.71《Summer Time》

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《夏になれば豊かになる 魚は跳ねて 綿の木は伸びる 父さんは金持ち 母さんは美人 だから坊や 泣くのはおよし》

この子守唄は、南部の町に住む貧しいアフリカ系アメリカ人の生活を描いたオペラ『ポーギーとベス』のアリア『Summer Time』。1935年、ジョージ・ガーシュウィンによって作曲され、翌年、ビリー・ホリディのニューオリンズ風な歌声で広く世に知られるようになった。ビリー、サラ・ヴォーンと並ぶ20世紀のトップ女性シンガー、エラ・フィッツジェラルドは、しっとりと伸びやかに風景を蘇らせる。ジャズ、ロック、R&Bなど、あらゆるジャンルで歌われるスタンダード・ナンバーだ。

この曲を初めて聴いたのは15歳。ジャニス・ジョプリンのバージョンだった。絞り出すような歌声に衝撃。歌の魂に打ちのめされた。以降、ジャズ喫茶でアルバイトをしていたこともあって、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン等々.……数々の演奏を聴き、私の魂を揺さぶる大好きな曲となった。

10代の終わり、1人で新宿のライブハウスに行った。女優でジャズ歌手でもある沖山秀子のライブ。彼女は今村昌平監督に見いだされ、映画『神々の深き欲望』でいきなりヒロインに抜擢。豊満な肉体で原始的な「生」を露わにし、世間を驚かせた。自殺未遂4回、精神病院入退院7回、留置場経験3回……壮絶な実人生。そのライブで歌った『Summer Time』は凄い迫力だった。終わってトイレに入って手を洗っていると、当の本人が入って来た。私と目が会うや否や「どうだった?!どうだった?!」と、大きな目を見開き、小娘の私の顔を直視して真剣に聞くのだ。「よ、よ、良かったです」とおずおず答える私の手を握って、「ああ、嬉しい!!」と、彼女は太陽のような笑顔を見せた。

そして、ビリー・ホリディから70年の時を経た2006年、この世に生を受けたアンジェリーナ・ジョーダン。7歳の時に、公開オーディション番組「ノルウェーズ・ゴット・タレント」で優勝を果たす。歌ったのはビリー・ホリディの『暗い日曜日』。亡くなった恋人への想いを嘆き「自殺の聖歌」と呼ばれたこの曲を少女は歌い、大人達を驚愕させる。そして、『Summer Time』!!生まれながらの天才……というより、まるで歌の神様の巫女として、この世に降臨してきたとしか思えない歌声。「私はキラキラ星より、ビリー・ホリディ、エラ・フィッツジェラルドが好き」前世より選ばれし者の言葉。魂の永遠を信じてしまうサマータイム。

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