🎨美学No.61《ガラ》

By waltzblog No comments

画家サルバドール・ダリの妻、ガラ。前夫は詩人ポール・エリュアール。画家マックス・エルンストと夫を含めた相思相愛の三角関係でもあった。傲慢、冷徹、色情狂、金の亡者……彼女を表す褒め言葉は見つからない。「愛すべき芸術家のミューズ」があてはまらない、私にとっては謎の女性である。

ポマードでぴったりとなでつけた髪、胸飾りのついたシャツに真珠の首飾り、跳ねるような不自然な歩き方、突然抱腹絶倒し、地面に転がる。頭がどうかしているのか?それが、10歳年下のダリだった。25歳にしてまだ女性との経験はなく、極端に臆病で保護を必要としている。「唯一の女」と讃えられ、男が自分なしではどうにもならないと知ることは、彼女自身の存在意義の証。

二人は社交界の上層ブルジョワジーとしかつきあわない。ガラの考える営業戦略の中で、ダリも自分の存在をどう主張するかを心得ている。ディナーの場でも奇行にはしり、横にいるガラは、彼が何をやっても肯定も否定もせず黙って見ている。シャネルがお気に入りだが、ダリの宣伝のためには正反対のスタイル、風変わりなエルザ・スキャパレリの服を着て「ダリとガラ」を演じる。ガラの手腕でダリの仕事の領域は広がる。天文学的な額のトラベラーズチェックと現金を持ち歩き、ホテルの金庫に紙幣を詰め込む。彼女は不足することが怖い。貧乏に逆戻りするのではという強迫観念。「金に憑かれ微笑みさえしない女」と言われてもガラは屈しない。ガラはダリの妻にしてモデル・プレス・マネージャー・プロデューサー、つまりダリ・カンパニーの経営者、そしてダリ帝国の女王となった。

彼女の一生を辿っていくと、家族・血縁の繋がりやあたたかさを一切感じない。新聞に載った危篤の記事に、わざわざ駆けつけた実の娘にも会うのを拒絶する。何故か?自ら冷徹な女を演じきる必要があったのか?夥しい数のガラの肖像画、描かれた本人はどう思っていたのだろう。ダリの「聖母」となり、それが全てお金に替わり、美術館に飾られ、名誉を得て世の中を魅了する。「絶対私が必要」という確固たる自信は結果を残し、更に尊大なガラを造ったとしてもおかしくはない。

ロシア出身のエレナ・イバノブナ・ディアコノワ、自らを「ガラ」と命名して選んだ人生は、人格的な褒め言葉とは無縁で結構!!と言っているようだ。はたして、彼女は悪女なのか、賢女なのか。「心を安定させる天使」「アラジンのランプ」ダリはガラをそう呼んだ。それが全て。

 

 

 

コメントを残す