📖美学No.57《別冊太陽 近代恋愛物語50》
瀬戸内晴美 選
明治・大正・昭和と生きた男女の愛のかたち50選。若き瀬戸内寂聴先生、よくぞ選んでくださった!という本。この本に出会って「時代の女たち」が気になり、関連の本を読み始めたのだ。
1972年に季刊誌『別冊太陽』は創刊。ムック誌(magazineのmとbookのookの混成語)の先駆けである。毎号一つのテーマをビジュアルと資料や解説で紹介。全てが永久保存版のような一冊で、今でも書店によるとついバックナンバーを探してしまう。何と言っても、ビジュアルも多く分かりやすく読みやすい。本書は1979年発行の日本のこころシリーズNo.26。
明治編・大正編・昭和編そして日本恋愛史で構成されている。ページごとに色別のカラフルな枠取りがされ、解説文とともに写真、絵、手紙、新聞記事……と、様々な角度から1ページないしは見開き2ページでひとつの恋愛を紹介。
明治編:東洋のジャンヌ=ダルク、景山英子の愛/やわ肌の熱き血汐 昌子、鉄幹/北原白秋人妻恋愛事件/樋口一葉のかなわぬ思慕 ほか
大正編:新しい女平塚らいてうの”若いつばめ”/筑紫の女王、柳原白蓮柳原白蓮の出奔/有島武郎、美人記者と情死/中原中也の三角関係 ほか
昭和編:岡本かの子の複数的同棲生活/女優岡田嘉子の駆け落ち/”愛のコリーダ”阿部定事件/国際スパイ、ゾルゲの愛 ほか
タイトルだけでドラマである。はたして今、こんなタイトルで飾られるような恋愛があるだろうか?現代のように恋愛はお手軽ではなかった。知り合うことも成就させることも。だからこそ「運命」を感じて刹那な世界に走ってしまう。まさに、死ぬの生きるの……の世界である。束縛のない世界では「恋」をひしと感じて思い煩うこともないままに、出逢い、別れと事は進んでしまう。「禁断」と言う言葉に隠された甘い蜜は、今はもうないのかもしれない。
掲載されている数々の恋文は、便箋や原稿用紙、ノートや絵葉書などにそれぞれの人となりが分かる文字で書かれている。メールで全てが始まり終わってしまう現代では、もう恋文は残らない。♥️マークではなく「好きです好きです好きです」と恋は盲目になっているからこそ書ける言葉は愛しい。思いが届くことを祈りながら投函する恋文は「無事に届いただろうか……今頃読んでいるだろうか……」と、色々な想像をして返事を待ちわびる。恋文を書かなくなった現代、人として、とてももったいない過失を犯しているような気がする。