🎨美学No.55《ジャン・コクトー》
詩人、小説家、劇作家、評論家、脚本家、画家、映画監督と数々の肩書で《芸術のデパート》と呼ばれたコクトー。彼は、特に「詩人」と呼ばれることを好んだ。世紀末パリの芸術家達を調べると、必ずコクトーと出逢う。ココ・シャネル、モディリアーニ、ピカソ、サティ、キスリング……彼らの隣にはコクトーがいる。そして、親友であったエディット・ピアフ。彼女が亡くなった知らせを聞いて、その日の夜に心臓発作を起こしてコクトーは亡くなった。
脚本コクトー、音楽サティ、美術・衣装ピカソという豪華な顔ぶれのバレエ作品『パラード』は、デイアギレフ率いるバレエ・リュスが上演した。当時の最先端の芸術家達のコラボレーションは、その斬新さと奇抜さで、大ブーイングとなる。野次の怒号の中、さて、彼らはどんな顔をしていたのだろう……「してやったり!」と乾杯したに違いない。
南仏ニースからコートダジュールの海岸沿いを東に行くと辿り着く、ヴィルフランシュという港町。そこに、コクトーが修復・装飾を手掛けた「サン・ピエール礼拝堂」がある。初めて訪れたのは30年前。ひとたび入ると、そこはコクトーの世界!壁から天井にいたるまで、コクトー!!漁師の守護聖人であるサン・ピエール(聖ペテロ)に捧げられた礼拝堂なので、そこに描かれているのは、漁師達。当時、隣にあった土産物店でコクトーの絵皿や食器を買った。それから我が家の食卓には、いつもコクトー。残念なことに、長年、普段使いしていたら、何枚も割れてしまって、今残っているのは2枚。
それから時を経て約20年。再度、訪れるチャンスがあった。友人達に、ぜひコクトーの礼拝堂を見せたくて、リヨンから車で向かった。だが、修復工事のため、門は固く閉ざされたまま!!絵皿をどっさり買う気満々だったのに、昔あった土産物屋もなく、近くでビールを飲んでホテルに戻った。その日の夕食はホテル内の予定だったが、「ちょっとレストラン探しに行く」と言いおいて、私は夜の街に出た。ピンと来るレストランがあった。皆を誘って入ってビックリ。そこは、礼拝堂装飾の時、コクトーが通ったレストランだったのだ!!マダムから、コクトーの話を聞き、万歳!!終わりよければ、全て良し!!
「ヴィルフランシュ=コクトー」となってしまった私には、詩人というよりも「南仏の青+白の食器」が、ジャン・コクトー。あれあれ……と、彼は苦笑いしているかもしれない。《芸術のデパート》には欲しいものがいっぱいある。