🎥美学No.52《ブランカニエベス》
Blancanievesは、白雪姫という意味のスペイン語。「ヨーロッパのサイレント映画へのラブレター」と監督が語るモノクロ映画。台詞はなく、会話の字幕がたまに入り、あとは全て音楽で繋いでいる。グリム童話の「白雪姫」とスペインの国技である闘牛を織り交ぜたダークファンタジー。
天才闘牛士の娘カルメンシータは、自分の誕生で母を亡くす。闘牛で大怪我をおった父の再婚相手は、欲深く、彼女を女中扱いし、挙げ句の果てには殺害しようと試みる。が、旅回りの小人闘牛士団に助けられ、「白雪姫」という名で彼らと一緒に見世物巡業の旅に出る。カルメンシータは父の才能を受け継ぎ、女闘牛士としてスターになっていく。だが、彼女が生きていることを知った継母は、毒リンゴでの殺害を企て彼女を狙う。
白黒の画面は、まるで次から次へアンティークのポストカードを見ているようで美しい。幸せだった日々が、祖母の死によって運命が変わる。それを言葉ではなく、白いドレスを黒の喪服に染めて見せる演出は、こんな方法があったのか!と感嘆。
歌を忘れたカナリヤ……ではないが、俳優の声を聞くことはない。俳優の仕事はそのヴィジュアルと動きのみ。言葉を封印し、音楽だけで物語を繋ぐ試みは、作品をより幻想的ファンタジーの世界へ誘う。出来ることを狭くした世界……当たり前にあるものを封印すると、新しいことが見えて来る。
2019年11月、フランス、カミーユ・クローデル美術館での「ワルツ」公演、開催出来る場所はフラットな会議室だった。当然、照明も出ハケの場所もない。背景のスクリーンに映像を映すため、カーテンは閉める必要があり真っ暗。狭い空間でのダンサーの動きをどう見せるか?会議室から舞台空間へ、どう移行出来るか?不自由な環境での発想の転換は、思いも寄らぬ創造を生む。
翌年、世界は変わった。人の顔はマスクで覆われ、雑踏の中で、その口元を見ることはない。目は微笑んでいるようだけど、口は真一文字かもしれない……本当の表情を読み取ることは難しい。世界中の「当たり前」というレールは、大きな方向転換を余儀なくされたのだ。この映画、初めは会話のない世界に違和感を感じるが、すぐその世界に慣れてくる。映像と音楽だけが「当たり前」の世界に思えてくる。感性への刺激だけで物語を読む。人の順応力はたいしたものだ。ダークなことも美しいファンタジーにできる創造力……未来の扉を開ける鍵はきっとある。