👗📖美学No.30《世界服飾史》
女性史、文学史、美術史、デザイン史、ファッション史etc.…カテゴリー別に分かれた歴史の本が好きである。美術出版社から出ているこのシリーズは、カラーのイラスト・写真が豊富で、要点をコンパクトにまとめてあり、とても見やすい。分厚い歴史本と違って持ち運びに便利だし、眺めているだけでも楽しい。昔の女性が主人公の本を読めば、巻末にある年表で、どんな洋服を着ていたのか……と辞書を引くように見ている。一番下に記載されている世界の出来事と、その当時のファッションを照らし合わせて見るのも面白い。
私が仕事を始めた80年代は、何と言っても日本のファッションが世界に認められた時代であった。コム・デ・ギャルソンとヨウジ・ヤマモトがパリコレクションにデビューし、ヨーロピアンモードの既成概念を打ち砕く「黒」を打ち出したのだ。それは、パリ・オートクチュールを頂点とするモード界の図式を大きく変えた。シワシワの素材や穴のあいたニット、大胆なカッティングで身体のラインが分からないルーズでアシメトリーな服。後に「ボロルック」と呼ばれたファッションだ。それらは綺麗な色、上質な素材で美しく身体のラインを見せ、調和が重要な従来の西洋の伝統的なスタイルとは全く相反するものだった。つまり、美の対極にあったのだ。当然、発表当時は受け入れられず 「核の生き残り」「未来を暗くするスノビズム」など、惨憺たる批評であった。だが、西洋への冒涜とされた東洋からの衝撃が 「新しい美」を生み出したのだ。新しいものが誕生する際に生まれる賛否両論こそが文化の狼煙だ。
ファッションの歴史はそのまま女性の生き方の歴史でもある。窮屈なコルセット、ドアを通り抜けられないような大きさのパニエでは、自由な行動は出来ない。ジャージ素材にパンツ、スニーカーを履いた女性とは、行動だけでなく思考も全く違うだろう。好きになる男性も違うだろう。
60年代、70年代、80年代…と10年ごとに区切られたファッションの呼び名は、2000年以降はない。ファッションだけではなく音楽や文化全般がそうだろう。情報伝達が加速してゆき、もはや10年で一時代ということにはならない。
「歴史は繰り返される」……さて、本当だろうか?自由を手に入れた女性達は、これから100年間の服飾史をどう創っていくのだろう?できれば機能に偏ることなく、美しいドレープや衣擦れの音などは残っていて欲しいものである。