📖美学No.16《空の名前》
写真・文 高橋健司
私が幼い頃に通っていたのはカトリックの幼稚園だった。先生は黒い修道女姿のシスターで、スカート脇に長いロザリオをつけていた。目線が低かったからなのか、黒いスカートが目の前を横切るとき、ロザリオがガチャガチャ揺れていたのを鮮明に覚えている。憧れた。「お父さんも、お母さんも死んだら、私は修道女になる。」と心に誓い、マリアが彫られたペンダントヘッドを小さな布の袋に入れて、お守り代わりにしていた。「空には天使がいて、あなた達がしていることを全て見ています。良いことも、悪いことも、ちゃんとノートにつけているのですよ」と、シスターから教えられた。空には天使がいる……そうなんだ……。
深呼吸するように、いつも空を眺める。雲の切れ間から幾筋もの光がこぼれ、地上を照らしている。そんな空に出逢うと、崇高な気持ちになった。小さな天使達が、右手に鉛筆、左手にノートを持って、天から光の階段をちょこちょこと降りて来る。それは、すらすら絵に描けるように私の頭の中にインプットされていた。
日々、色んな空がある。『空の名前』と題された背表紙を見つけたとき、すぐ私の手は伸びた。ページをめくると、まぁ、なんと色んな空が!!空を背景とする雲、雲を動かす風、空から降る雨や雪、空の色を変える光……その写真のオンパレードで、それらに一つずつ、ちゃんと名前がある。その中で、「天使の梯子」という名前を見つけた。まさしく、私が大好きな崇高な空の名前だった。
《ヤコブが、イザクから祝福を受けてイスラエルの地に旅した時、ある土地で石を枕に寝ていると、天に通じる階段が出来て、天使が上がったり下がったりしているのを夢見た。ヤコブは、ここが天の門の地と知り、神に祈ってここにイスラエルの国をつくった。」ということから、ヨーロッパではこの空を「天使の梯子」というようになった。》とある。やはり……!!
ファッションの仕事をしているとき、コレクションの案内状にどうしても「天使の梯子」の写真を使いたくて、著者の高橋さんに電話をした。快く承諾して頂き、後日、写真のネガが送られて来て、無事にコレクションカードを飾った。
私が作詞をした「カミーユのワルツ」も「MITASORA」も、やはり、空が出てくる。特に、「MITASORA」は、完全に「天使の梯子」をイメージに書いた。空=天=天使というインプットは、いくつになっても私から除かれることはない。空は、私にとって自分の気持ちを映す神様なのだ。