📖美学No.13《女たちよ!》

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伊丹十三 著

映画監督 ・俳優・エッセイスト・翻訳家・商業デザイナー・イラストレーター・CM作家・ドキュメンタリー映像作家……と、マルチな肩書きを持つ氏のエッセイ。彼の美意識が、1968年35歳にして、すでに完成されていることに驚く。

青春時代、日本映画では『サード』『青春の殺人者』『あらかじめ失われた恋人たちよ』等、アート・シアター・ギルド(ATG)製作・配給の作品が話題であった。彼も出演し、数々の賞に輝いた映画『家族ゲーム』もATG作品。そのロゴマークがカッコいいなぁといつも思っていたら、何と彼のデザインだと知って、尊敬の念を抱き、それからファン歴が始まる。

21歳から商業デザイナーとして働いていた彼の仕事で、特に有名なのはレタリング。明朝体を書かせたら日本一!ということ。パソコンのない時代、絵心のある者だけがデザイナーでいられた。自ら描けない者は、資格無し!!プロとアマチュアの境がなくなってしまった今とは、レベルが違う。 

何が凄いっ!て、53年前に「スパゲティの茹で方はアル・デンテに!」と語っていることだ。「スパゲティは饂飩ではない」声を大にして言いたいと。当時、日本ではパスタという名称もなく「スパゲティ=ナポリタン or ミートソース」が喫茶店にあるだけという時代。麺は饂飩のように柔らかくて当たり前だった。私の同級生「ずっと、饂飩をケチャップで炒めたものをスパゲティだと母は言っていたのよ!騙された!!」と、母親の言葉のみが情報源!?笑い話のような、そんな時代。

伊丹十三は小学生の時から英語を学び、その英語力で海外での映画作品にも出演。ハリウッド、パリやロンドンで見て感じたことは、彼の本物志向を定着させる。「女がいい服を着るということはこういうものだな。」映画『ボッカチオ70』に出演しているロミー・シュナイダーのシャネルの着こなしが見事だと語る。服のデザインと同じくらい、靴・バッグにも目を光らせるべし。フランスのLOUというメーカーの下着が夢のように美しい。女のセーターの着こなしは、英国流とフランス流の二つ。『アラベスク』という映画には、ディオールのドレスや靴が出てくるからよく見るがよい!!……と、伊丹氏は女たちに言うのである。

『女たちよ!』と、投げかける言葉の裏には、彼独特のダンディズムが隠れている。男はかくあるべき!そのかくなる上で、理想の女たちを追い求める。これは伊丹十三ならではの求愛のエッセイなのだ。

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