🎼美学No.6《JAZZ》
ジャズの時代があった。上京してすぐの頃、吉祥寺や高円寺のジャズ喫茶でアルバイトをした。店主自慢のオーディオでジャズのレコードをかけ、コーヒーを出す。店内は薄暗く、会話は厳禁。スピーカーの真ん前のテーブルが定位置、必ず最初はこの曲をリクエスト、来る人の個性があって人間観察にもなった。腕を組み、聴き入っているお客が手をあげ「キース・ジャレットのBelongingのA面」なんていうリクエストにも応える。そこで素早くリクエストに応えるには、店内の壁を埋め尽くすレコードの在処、その曲を知っていなければならない。 お客のいないとき、好きなレコードをかけ、Big & Good Sound で、じっくりJAZZを聴けたことは、今では貴重な財産だ。
ニューヨークに初めて行ったのが30歳。というか、この時が海外旅行初!それまで、友人が海外旅行での土産話を楽しそうに話しているのを横目に「まだまだ日本で未開拓の土地がある!」などと、海外には少しも感心がなかった。ファッションブランドを設立した頃、資金がないので、アトリエに置く家具を古道具屋で買っていた。年末にもらった何かの引換券。とりあえず財布に入れたまま、忘れていた。年が明けて、電話がかかる。「おめでとうございます!ニューヨークへの往復チケットが当たりました!!」そんな天から降ったようなチケットでニューヨークに行ったのだ。
一通りの名所は見たような気がするけれど、覚えているのは、ダウンタウン。ソーホーはその当時、アーティスト達がこぞって、倉庫をアトリエやギャラリーにしたりして、SOHOブームの初期。この場所を知っていたなら、ファッションブランドなんかやらずに、画材を持ってここに来て住みたかった!と、地団駄を踏んだ。その隣がグリニッジ・ヴィレッジで、“Sweet Basil”、“Village Vanguard”などジャズのスポットが沢山ある。どちらのお店だか忘れたが、ふらっと立ち寄ったのに、出演者が豪華!!生ける伝説、ジャズ・サックスの巨人!と言われたソニー・ロリンズだったのだ。しかも、すぐそこで彼がサックスを吹いている席。日本の片隅で、レコードから聴いていただけの遠い人が、隣でJAZZを奏でている。そして、その音の呼吸を感じて、お客は声をかけ、彼と共にスウィングする。JAZZの楽しみ方を改めて発見。世界は思っているほど遠くないんだ……と未来を夢見た初ニューヨークだった。