🎨美学No.69《CLAUDE CAHUN》

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クロード・カアンの写真集である。と言っても、この名前を知っている人はなかなかいない。日本で刊行されている本もない。表紙の写真は1928年に撮影されたセルフポートレートだ。こちらを見つめる視線はどこか虚無的だが、鏡に映っている顔は少年のようだ。同じ年に撮影された坊主頭の写真、モノクロのコントラストが静謐なストイックさを語り、ファッションにも洗練された美しさがある。

私が彼女を知ったのは、友人からもらったポスターだった。カアン自身が少女に扮し、巨大な戸棚の中で眠っている。アンティックゴールドに刷られた美しく不思議な世界。一目で魅せられてしまった。

「女性でもなく男性でもなく、中性が一番自分にフィットする」と語る彼女は、本名リュシー・シュオッブ、ユダヤ系フランス人。「クロード・カアン」は自らが名付けたアーティスト名だ。1894年に生まれ、18歳の頃からセルフポートレートを撮り始め、20歳の頃には文芸誌や新聞に随筆を寄稿するようになり、活動の場は演劇や映画へも広がる。自身のジェンダーの特殊性を作品に込め、ジェンダーに挑むシュルレアリストの先駆者となった。

生涯のパートナーとなった女性も「マルセル・ムーア」というアーティスト名を持つ。二人とも男性名を名乗り、パリのモンパルナス界隈に住み、彼らの家はアーティストの集まるサロンとなる。

キッチュな仮装、胸には「I AM IN TRAINING DONT KISS ME」、頬にはハート形のマーク、大きなダンベルにも絵と文字。額の生え際を美しいアーチ形に創り、腕を黒く塗り、ガラスの球体を持った、ドキッとするようなコントラスト。彼女のセルフポートレートは、性と時代を超えた、斬新な美と強いメッセージがある。女性として生まれた現実の延長上にある、きわどい美の感性は類い稀である。

二人は17年住んだパリを離れ、イギリス海峡のジャージー島に移り住み、戦争反対・反ドイツのビラを配ったりと、武器によらない権力に対する抵抗運動=レジスタンス活動に積極的になる。それが芸術活動でもあった。しかし、カアンは1944年にゲシュタポに逮捕され死刑宣告を受ける。幸いにも執行はされなかったが、刑務所で彼女の健康は損なわれ、1954年、60歳で亡くなった。

クロード・カアンの日常から逸脱した不可思議な世界、違和感のある世界、見たことのない世界を表現するには、たくさんの言葉で解析するより、心を素直にして、「美しい」という言葉がふさわしいように思う。

 

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