📖美学No.67《 アリス・B・トクラスの自伝 》

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ガートルード・スタイン 著

Rose is a rose is a rose is a rose.   薔薇は 薔薇で 薔薇は 薔薇だ

「20世紀の文学は、1本のバラと共に始まった」と文学者に言わしめた言葉。ふと思い浮かんだこの言葉を紙に書き、ポイと屑篭に投げ捨てたのが「20世紀文学の母」と言われるガートルード・スタイン。そして、屑篭に捨ててあった紙を拾い、これは!!と、便箋に印刷したり、テーブルナプキンに刺繍して、人々の目に触れさせ、この言葉を世に出したのが、パートナーであり秘書の女性アリス・B・トクラス。何が時代を創るか分からない、ひらめきのなせる技。

ガートルード・スタインを知る人は日本では多くはない。有名なのはピカソが描いた『ガートルード・スタインの肖像』。そこには、モンパルナスのドンたる風格で、未来を凝視しているような圧倒的な姿がある。完成した肖像画の顔は、写実的にはちっとも似ていなかったが、「彼女がこの絵に似てくるから心配はない」と親友ピカソは言った。

天才画家ピカソの絵を初めて買ったのがガートルード。展覧会で嘲笑の中にあったマティスの『帽子の女』を買ったのも彼女。こうして、当時無名だった画家達の絵を買い集め、彼女の居間は、モンパルナスの芸術家の集まるサロンとなる。

本書の面白いところは、パートナーである「アリスの自伝」という形式をかりて、ガートルードが自分達の生活や、出会った天才達を描いているということ。その中で、アリスがガートルードを分析したりもする。つまり、作家がその伴侶の気持ちになって、彼女から見た自分自身を語らせるという複雑な試みだ。ガートルードが口述し、タイプするのはアリス。自分の半生を「自分の言葉」として他人が語り、それを承認して黙々とタイプする。一度書いたものは書き直さないガートルード。アリスが「異議あり!」とはならなかった二人のパートナーシップが凄い。

《私が一生のうち三回だけ会った本当の天才……ガートルード・スタインとパブロ・ピカソとアルフレッド・ホワイトヘッド》ガートルードがアリスとして自伝の中で語る言葉。これは「私は天才である」というガートルード自身の意見である。その自意識は、自らの仕事のみならず、画家の才能を見極め、世に放つ離れ業にも発揮された。

本書は「薔薇が薔薇であるということは、薔薇は薔薇であるということである」つまり、「私は私である」というアイデンティティの主張が貫かれた一心同体の二人の自伝なのだ。

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