🎥📖美学No.11《ジョニーは戦場へ行った》

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原作・脚本・監督 ドルトン・トランボ

1939年に発表されたこの反戦小説は、第二次世界大戦勃発の年に発表されたが、「反政府文学」として1945年に事実上の発禁処分となる。戦後復刊されるも、朝鮮戦争で再び絶版、休戦後にまた復刊……と、戦争の度に絶版と復刊を繰り返す。ベトナム戦争最中の1971年、トランボ自身の脚本・監督により映画化された。

主人公ジョー・ボナムは、恋人を残して第一次世界大戦へ出征。爆弾に吹き飛ばされ、何処の国の病院かも分からない病室に横たわっている。目が見えず、耳が聴こえず、両腕・両脚がない。彼の意識は徐々に自分の状態を認識する。口と鼻のあった部分は、大きな穴となって目を削ぎ取っている……夢に違いない。怖い夢を見たら大声をあげて自ら目を覚ましていたことを思い出す。だが、目もなく口もなく音もない世界ではそれも出来ない。まして「今」が眠っている世界なのか起きている世界なのかさえ分からない。彼にあるのは意識によって思考することだけ。奥底にある「意識」だけが彼を支配し、夢と現実の世界を行き来している。

誰が戦争へ誘ったのか?なぜ自分は行ったのか?NOと言う権利はなかったのか?何のために始めた戦争なのか?その目的に従う意味は何なのか?ジョニーは、意識だけで生き続ける。

ベトナム戦争関連の映画は沢山あったけれど、この作品は当時16歳の私には、衝撃だった。20代になって原作を読んだ。想像力を駆使して意識だけしかない人間になってみる。映画よりもはるかに怖かった。生きていることの意味に、肉体の有無という最低条件を突きつけられ、答えがなかった。死を考えると、意識が消滅するのが想像出来ず、怖い。意識はどこへ行くのか?この作品は、真逆だ。自分を認識する肉体はほぼ無く、意識だけがはっきりある状態。生の究極、命の尊厳とは何か……命とは、一体どこにあるものだろう?

著者ドルトン・トランボの死後、新たな真実が分かる。オードリー・ヘップバーン主演の名作『ローマの休日』が、実は1953年に書いた彼の作品だと判明したのだ。ハリウッドから追放されていた時期に書いた作品で、友人の脚本家イアン・マクラレン・ハンターが名義を貸して発表されたのだった。1993年に、改めてトランボにアカデミー脚本賞が贈られた。

『ジョニーは戦場へ行った』の負傷兵、『ローマの休日』の王女、全く違う主人公が永遠の名作となった創造の力……作家のイマジネーションは凄い。

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